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二OO二年末で米国の対外純債務残高は約二・七兆ドルと米国の国富五O兆ドルの約五%に達している。 その上、現在の経常赤字を前提に考えれば毎年五OOO億ドル以上増加していく。
二OO四年初にかけて既にドルは下落したが、米国の経常赤字が明確に減るにはなお不十分で、ドルに関する弱気は維持せざるを得ない、というのである。 時期は不明だが米国の対外債務に対する支払い能力ないしは意志に関して、海外において疑念が強まり、米国に対する信用供与(貸し付けや証券投資)がストップし、ドルが急落し、米国の輸入が減少する、という展開になる懸念が大きいという論理である(インタビューの中では明確には述べられていないが、米国の輸入が減少するとすれば、長期金利の急上昇や株価の急落が起き、景気を抑制しなければならないはずである)。
同氏は米国民としても投資家としても、こうした予測は外れた方がよいと思っていること、米国の経済のダイナミズムが金融市場や経済に混乱をもたらすことなしに、問題を解決していく可能性を完全に否定しているわけではないことを率直に述べている。 同時に、意味のある投資を行うため、資産の一定割合を外貨で保有することはやむを得ないとも言っている。
その上で、ドル急落を避けつつ米国の貿易赤字を均衡に向かわせる方策として、輸出金額の範囲内で発行される輸入許可証制度(事実上の輸入金額制限)を提案している。 その是非や影響の評価はともかく、よほどの保護主義に訴えない限りドル急落の懸念を払拭できないということである。
これらに加え、年次報告の中で同氏は、米国の株価が十分に安くなったとは、なお判断できないこと、二OO一年のエンロン問題に始まり、二OO三年発覚した投信の不正取引事件に至る米国のコーポレートガバナンス問題が、改善に向かうどころか悪化している面があると指摘している。 こうした全体的な判断に立てば、米株や社債にも積極投資できないから、結果的に現金の割合を高めざるを得ないと結論するにあたり、「われわれ(パ!クシャ1 ・ハザウェイ社)の資本は十分活用されているとは言えない。
状況によりやむを得ないこともままあることである。 (リターンの低い現金のまま資金を保有している)ということは確かに望ましくない状況だが、私の経験からいって、何かばかげたことをするよりは痛みは少ない」と結んでいる。

金融市場の参加者の注目を集める両者の意見は、米国の経常赤字がもはや無視できない歴史的なレベルにまで拡大しているという認識ではおそらく一致している。 グリーンスパン議長はドルを中心とする現在の国際金融の枠組み(国際通貨体制といってもよかろう)を円滑に機能させれば、経済に大きな悪影響を及ぼすことなく、不均衡を調整していくことが可能との立場なのに対して、バフェット氏は混乱と制度改革を必要とする可能性が高いとの主張であろう。
どちらが正しいのか。 簡単に答えが出せる問題ではないが、本書が取り組もうとするのもまさにこの問いかけである。
米国政府は現在のドルをどのようにとらえてきたのだろうか。 プッシュ大統領は、言葉の上ではクリントン政権第二期においてル−ピン財務長官が主導した「強いドル」政策に変化はないとの発言を続けてきた。
二OO二年末に財務長官をオニ−ル氏からスノ−氏に、経済担当補佐官をリンゼ!氏からフリードマン氏に交代させ、経済戦略の方向修正を図ったことは明らかだ。 通貨政策での変化が最初に表面化したのは、ニOO三年六月(一六〜一七日)の先進国サミット蔵相会合後の記者会見であった。
スノ1財務長官はニOO二年以降進行したユ−ロ高ドル安について、「緩やかな通貨調整」に過ぎないと表現した。 続いて「強いドル」が取引手段、価値保存手段として信認され、偽造しにくい通貨と定義し、為替レ−トは「通貨に対する需給というファンダメンタルズを反映する」と述べた。
圏内的な概念日「強いドル」を再定義し、為替レ−トはドル安を放置する方針と受け取られた。 より衝撃的であったのは、ドパイで開催されたG7(先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議、二OO三年九月二O日)の声明である。
「為替レ−トのさらなる柔軟性が、主要な国・経済地域にとって、国際金融システムにおいて市場メカニズムに基づき円滑かつ広範な調整を進めるために望ましい」とされたことだ。 スノ−米財務長官はこの声明について、「マイルストーン・チェンジ(画期的な変化)」と述べたと伝えられる。
プッシュ政権は大統領自身をはじめ、為替に対する姿勢(あるいは言動)を変化させる傾向があるとしても、底流の部分で介入による相場管理やドル固定制を批判し、為替レ−トを通じて拡大する米経常赤字の調整を図るという方向性が打ち出されたと解釈ができる。 続く二OO四年二月六〜七日に米フロリダ州、ポカ・ラトンで開催されたG7(先立進七カ国財務相・中央銀行総裁会議)の共同声明では、「過度の変動や無秩序な動きは経済成長にとって望ましくない」ことが盛り込まれ、「為替レ−トの更なる柔軟性」はそれを「欠く主要な国・経済地域にとって」望ましいという限定つきの表現に変えられた。
金融市場では、さらなるユ−ロ高を回避したい欧州通貨当局首脳が円高を懸念する日本と「部分共闘」しつつ、ホスト固として議論をまとめる立場にあり、同時に大統領選挙をにらんで為替市場の急変も望まない米国から妥協を引き出したという見方が有力視されている。 かつてドル反転上昇につながったG7の声明は、九八七年のルーブル合意や一九九五年四月のワシントンG7の声明)においてはっきり述べられていた、「ドル安が十分に進んだ」というニュアンスを伝える表現はなく、米国の為替に対する基本スタンスが変わったとは結論しにくい。

また、米・日・欧いずれも財政金融政策で新しい約束(コミットメント)をしていない。 「為替レ−トのさらなる柔軟性」を欠く主要な国・経済地域の代表格とみられている中国が、通貨の切り上げを行うとしてもごく小幅であり、黒字を出し続けるわが国の円の動向も、内外政策当局者や金融市場関係者から引き続き注視されるだろう。
二OO四年に入り米の景気回復が雇用の増加に結びついてきたことから、プッシュ政権によるドル安容認的な発言は沈静化している。 国際商品市況がインフレ率の一部上昇につながったことを受けて、FRB(米連邦準備制度理事会)も六月三O日と八月一O日に政策金利であるフェデラルファンドレ−ト(日本の無担保コール翌日物に類似)の誘導目標をそれぞれ〇・二五%引き上げた。
FRBによる今後の追加利上げをにらんで米国の長短金利が上昇したことで、ドル安にはいったん歯止めがかかったようにみえる。 米国の経常赤字は縮小に向かうどころか、史上最大を更新する勢いになっている。
「双子の赤字」問題には何ら解決がついていない。 利上げによってドルが安定ないし反発していけば、経常赤字の拡大傾向は一層強まる懸念すらある。
一方、プッシュ政権は中国に対する通貨切り上げ論を弱めていない。 景気循環の性格によって程度は異なるが、金利上昇が続けばいずれは景気や株価にも悪影響を与えよう(今回の米景気の回復は金利上昇に対しかなり脆弱である)。

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